▲1987年開業当時の名古屋駅。カーナビも携帯電話もない時代。
私が開業しインプラント治療を始めた30年前のインプラント手術は入院が必要な大掛かりな手術でした。もちろん、少数歯の症例で、骨量が十分にある症例においては、自分の医院で日帰り手術で行なっていましたが、ほとんど歯が無いような状況においては、インプラントを埋める骨量が確保出来ない場合が多く、私が非常勤を務める総合病院で、全身麻酔下で腰骨である腸骨から骨を採取して上顎洞内や歯槽骨頂部に移植を行いましたので、入院が1週間、そして退院後も1ヶ月程度は松葉杖を使用する生活を送る必要がありました。
また、当時のインプラントの表面性状は現在のインプラントと比較するとインプラントが骨と強固に結合してオッセオインテグレーションを獲得する確率が低く、上顎奥歯などの骨質が悪い部分は、インプラントが骨と結合しない場合も30%程度ありました。
▲患者様の顎骨を3Dプリンターで出力し、手術に
用いるチタンメッシュ(チタン製の骨組)を事前に
製作
2000年頃からインプラントの表面性状が改良された製品が発売され、インプラントが骨と結合しオッセオインテグレーションを獲得できる確率が飛躍的に高くなり、十分な骨がある症例においては、ほとんどの場合、インプラントは骨と結合するようになりました。
また、骨が少ない場合には人工的な骨を用いることが出来るようになり、以前のように入院して、腰骨などを採取する必要は無くなってきました。
しかし、インプラント手術を受ける人間自体の治癒能力が30年で大きく進化する訳では無く、骨や粘膜などが治癒するスピードが早くなった訳ではありません。
ところが、一部の歯科医師の中では、インプラントを埋めたその日からインプラントに固定式の仮歯を装着してしまうという方法がブームになってきています。しかし、インプラントが骨と結合する為には骨の治癒する絶対的な時間が必要ですから、どのような場合でも成功するという訳では無いのです。
確実な結果を得る手術を行う為には、術野を明示し、目で確認しながら手術を行うことが重要です。医科においては内視鏡手術の進歩が著しいのですが、これらは内視鏡で術野を見ながら行われる手術です。
ところが、歯科においては低侵襲を謳い文句に、術野を見ながら器具操作することが出来ないソケットリフトによる骨造成を行う先生がいます。その結果、術中にシュナイダーメンブレンが破損したことを確認できない状態で手術を手探りで進めてしまい、移植材やインプラント本体が上顎洞の中に落下する事故が多発しているのが現状です。
確立された従来からの王道の手術手技で行えば、ほとんどの場合確実な結果が得られ、日帰り手術で翌日から仕事に復帰することができます。低侵襲という謳い文句で事故やトラブルが多発している抜歯即時負荷、フラップレス手術やソケットリフト手術を安易に選択することはお勧めできません。