使用するインプラントの数についてでは、ご自身の歯牙が一本も無い場合は、上顎では6~8本、下顎では4本のインプラントが必要だと述べました。
この場合は残っている歯牙に動揺があるかどうか?また残っている歯牙で咬んだ時、咬合が安定しているかどうか?で治療方針は大きく異なります。
インプラントと自分の歯との大きな違いは、インプラントは骨にダイレクトに結合いるのに対して、天然の歯牙は歯根膜という軟組織を介して骨と結合しているという点です。天然の歯は噛むと歯根膜が圧迫されて沈下します。
また食事中など歯に対して横方向の力が加わると歯根膜が伸びたり縮んだりして、歯自体が大きく動くのです。それに対してインプラントは荷重がかかってもほとんど動きはないのです。
椅子の足が4本ある場合を想定します。全ての椅子の脚がしっかりしていて固い平らな床に置いてある場合、椅子は安定して重い人が座っても安定しています。
しかし、椅子のそれぞれの脚の先端が柔らかいスポンジや、硬い金属の金具など、異なる被圧縮性が床に設置している場合には座面に座っても安定しません。また椅子の脚が座面に対して緩んで動く状態の場合は座面に座っても安定しません。座面に固定されている椅子の脚が動かない脚と動く脚が混在していては座っても安定しないのです。
この安定しない不安定な椅子に座っていると、しっかりしている脚に応力が集中し、脚が折れたりぐらついたりして、最終的には椅子は壊れてしまいます。この安定しない不安定な椅子に座っていると、しっかりしている脚に応力が集中し、脚が折れたりぐらついたりして、最終的には椅子は壊れてしまいます。
動く歯は基本的には補綴的に連結し、動かないようにする必要があるのです。特に、噛む力の80%がかかる奥歯は左右とも動かないことが重要です。
そういう訳で、奥歯は右だけとか、左だけ治すというのでは口腔は安定しません。椅子の脚の中に一本だけ動く脚が存在する状態や、車のタイヤの一本のタイヤがパンクしている状態では椅子や車が不安定なのと同じです。
インプラント治療をする場合は、動揺している連続した歯牙を連結して動きを封じ込め、咬合を安定させた上で、欠損部にインプラント治療を行うことが重要です。残存している歯牙を連結しても動揺が収まらず咬合の安定が得られない場合は、残存歯は抜歯をしてインプラントに置き換えることが口腔の安定に繋がる場合があります。歯牙を残すことは重要ですが、歯を残すことが最大のリスクになる場合があることを歯科医師自身が認識し、患者に伝えることが重要なのです。
また、残存歯が動揺していない場合でも、残存歯のみで安定した顎位が得られているかどうかも重要です。残存歯が中心位で安定した接触を得られない場合は、残存歯を矯正治療で適正な位置に移動させるか、補綴治療によって適正な咬合を付与する必要があります。