治療例から学ぶ

上顎臼歯部のインプラント(1)

上顎臼歯部のインプラント

上顎臼歯部のインプラント治療

さて上顎臼歯部のインプラント治療ですが、長期に安定するインプラント治療を目指すのであればサイナスリフト(ラテラルアプローチによるサイナスリフト)という骨造成をマスターする必要があります。

ソケットリフト(クリスタルアプローチによるサイナスリフト)では十分な量の骨をコンスタントに作ることが出来ません。結果、十分な長さのインプラントを使用することが出来ないので、また、骨ができる前にインプラントを同時に埋入してしまうので、オッセオインテグレーションの質が悪く、長期的な予後がサイナスリフト(ラテラルアプローチによるサイナスリフト)より劣ってしまうのです。

パノラマレントゲン写真

このレントゲン写真は上顎左右大臼歯部にサイナスリフト(ラテラルアプローチによるサイナスリフト)を行なった後に13mmと15mmの長さのインプラント埋入し補綴処置として連結したクラウンを装着した状態です。サイナスリフ(ラテラルアプローチによるサイナスリフト)トに用いた骨補填材はBio-ossを単独で使用しています。この方法が世界的に最も長期的な予後が良く、トラブルが起こりにくい上顎大臼歯部のインプラント治療です。

サイナスリフトを行う5つの理由

世界に名医として有名な先生や大学病院ではソケットリフトでは無く、サイナスリフトを行なっています。これには以下の様な理由があります。

(1)安全性を第一に考えるのであればソケットリフトよりサイナスリフト

現在、インプラントに関わる最も多い医療事故はソケットリフトに伴う上顎洞炎とインプラント体の上顎洞内への迷入です。

(2)長いインプラントを使用できるのはソケットリフトよりサイナスリフト

インプラントの表面と骨との接触面積が大きいほどインプラントは長もちすると考えられています。
インプラントの失敗の原因の一つにインプラント体に対する負担荷重があります。インプラントが長ければ表面積が増え、骨に対する負担が分散されます。また、インプラント周囲の骨は異常が無くても時間の経過と共に吸収します。10年経過するとインプラント周囲の骨が2~3mm程度吸収することは珍しいことではありません。一方、サイナスリフトは15mm程度のシュナイダー膜の挙上が可能ですが、ソケットリフトで安全に挙上出来るシュナイダー膜の量は5mmと言われています。

シュナイダー膜を挙上した隙間に骨補填材を入れますが、入れた分だけ骨が出来る訳では無く、時間の経過と共にできた骨は少なくなります。一方、長期に安定為に必要なインプラントの長さは10mm以上と言われていますがソケットリフトでは骨の出来る絶対的な量が少なく上顎洞底まで2~3mmの安全域を確保して10mm以上のインプラントを使用する為にはソケットリフトでは十分な骨量を確保することは難しいのです。

(3)色々な上顎洞形態やシュナイダー膜の破損に対して様々な対応できるのはソケットリフトよりサイナスリフト

ソケットリフトはブラインド手術です。つまり、目で確認しながら手術を行うことが出来ません。一方、サイナスリフトは上顎洞の内部を目で確認しながら手術を行いますので、シュナイダー膜が破損した場合などに適切な対応をすることが出来ます。一方、ソケットリフトでは術中にシュナイダー膜が破損した事実に気がつくことも出来ません。

(4)サイナスリフトの方がソケットリフトより手術時間が短いので手術侵襲が少なく、結果的に患者さんが楽で優しい治療

ソケットリフトは見ながら手術をするのでは無く手探りで手術を行います。しかし、シュナイダー膜を広範囲に剥離挙上する為には小さな穴から作業を行いますので簡単ではありません。結果、手術に時間がかかるだけでなく、事故が多発しています。サイナスリフトは剥離範囲が大きいので大変な手術のように感じますが、明示野で直接見ながら作業を進めることが出来ますので、術者の技術が優れている場合、手術は非常に早く終了します。

ソケットリフトの方がサイナスリフトより低侵襲だと思っている先生は、適切にサイナスリフトを行うだけの技術と経験が無い先生だと思います。

(5)ソケットリフトとインプラント同時埋入より、先にサイナスリフトを行いインプラント埋入は二次的に行なった方が、オッセオインテグレーションの質が良い

ソケットリフトの最終段階はインプラント本体で骨補填材を持ち上げながらインプラントを埋入します。つまり、インプラントが埋め終わった時点ではインプラント表面に接触しているのは骨では無く、骨補填材です。骨補填材が硬い骨になるためには6ヶ月程度の期間が必要です。インプラント表面に骨補填材を置いた場合、その部分の骨とインプラントの結合は弱く質が悪いことが最近の研究で分かってきました。そのような訳で、強固なオッセオインテグレーションを得るためには、先にサイナスリフトで骨を作った後にインプラントを埋入することがベストです。

トラブルが起こりにくい上顎大臼歯部のインプラント治療とは?

インプラント治療におけるトラブルが最も多かったのは、以前は下顎管損傷による下口唇麻痺でした。しかしCTの普及により現代の最も多くのトラブルが発生しているのは上顎臼歯部にインプラントを埋入に伴う上顎洞炎なのです。

上顎は歯が無くなると歯槽骨の厚みは5mm前後に吸収

1~2mm程度しか骨が残存していないことも珍しくありません。インプラントが長期に安定する為には10mm以上の長さのインプラントを使用することが望ましいことが多くの論文から分かっています。また、インプラントの先端部から上顎洞底までは2mm程度の厚みの骨が必要で、その骨量が確保出来ないと、風邪などで一時的に上顎洞炎に感染した時、インプラント本体も感染し、永続的な感染源になってしまうと言われています。

上顎洞底に骨が1~2mm程度しか骨が残存していない場合ラテラルアプローチによるサイナスリフト手術を行う

上顎洞側壁に穴を開け、上顎洞粘膜(シュナイダーメンブレン)を剥離挙上し、上顎洞底に骨補填材を入れて骨を造るという手術です。生体は骨補填材の間に血管新生を起こし、隙間に骨を形成し、最終的には骨補填材と骨とが一体化した頑丈な骨を作ります。幼若な骨が形成されるのに6ヶ月、インプラントの荷重を支えることが出来る強固な骨が出来るのには12ヶ月を要します。

サイナスリフト手術においては基本形と呼ばれる前述したラテラルアプローチ以外にクリスタルアプローチという方法

上顎洞の内部は基本的には無菌状態です。無菌の術野を解放して手術をする場合は落下細菌の数を制限したクリーンルームと呼ばれる無菌化された手術室での手術が必要です。そのような訳で、医科においては外来処置室で行われる処置と手術室で行われている手術と区別されている訳です。

ところがクリーンルームと呼ばれる手術室を作り維持する為には膨大なコストがかかります。
手術を行う手術室だけで無く、自動ドアで区切られた手洗い室や、手術室内部のエアーをクリーンに保つ装置を格納する巨大な機械室と吸気、排気設備も必要となります。このような設備をビルのテナント環境で作ることはコスト面からも、ビルの構造面からも非常に困難です。

そこで考案されたのがソケットリフトです。

ソケットリフトの正式名称はクリスタルアプローチによるサイナスリフトです。従来からのラテラルアプローチによるサイナスリフトとの違いは骨補填材を入れる入り口をラテラルアプローチは上顎洞側壁に設置しますが、クリスタルアプローチはインプラント同時埋入が一般的ですので、インプラントを埋める穴から入れるということです。を埋める

でも、皆さんは顎の手術を行う場所が手術室で無くても抵抗ありませんか?
あなたが医師や看護師であるならば抵抗があるのが普通です。だって、手術の術野に隣で治療している患者さんの口腔内の細菌が降ってくる環境なのです。

上顎大臼歯部におけるインプラント治療長期的な安定とは?

私の医院には他院で既にインプラント治療を行なってからの患者さんが大勢います。
その中で最も多いトラブルはソケットリフトのトラブルなのです。

骨が出来なかったり、シュナイダー膜が破れて骨補填材が上顎洞内に溢れたり、インプラント本体が上顎洞内に落ちてしまい重篤な上顎洞炎になってしまった症例を沢山診てきました。やはり、ソケットリフトと同時のインプラント埋入は非常にリスクの高い治療だと思います。

先にサイナスリフトを行なって十分な量の骨が出来た後に、インプラントが上顎洞底に数ミリの距離を空けて埋入されるというのが、
長期に渡りトラブルの無い、長期安定が得られる治療です。

リスク・副作用、費用について

リスク・副作用

顎顔面インプラント学会のインプラントトラブルの報告で副作用やトラブルの報告が一番多いのは下顎の神経損傷による口角から下口唇部にかけての知覚麻痺ですが、次に多いで副作用やトラブルは上顎洞内へのインプラントの脱落で、その次に多いトラブルは慢性上顎洞炎です。

下顎の下歯槽神経損傷はコンピュータガイドサージェリーを用いれば回避できます。上顎洞内へのインプラントの脱落は基本的なサイナスリフト(ラテラルアプローチのサイナスリフト)の術式では無く、ソケットリフト(クリスタルアプローチのサイナスリフト)とインプラントの同時埋入を行うことによって起こる事故です。

ソケットリフト(クリスタルアプローチのサイナスリフト)は事故が多いだけで無く、レントゲン上で上顎洞内に骨はできていても、その部分はオッセオインテグレーションは得られていないという論文がいくつも報告されていますので、事故を無くし、長期に良好な結果を得るのであればソケットリフト(クリスタルアプローチのサイナスリフト)では無く、サイナスリフト(ラテラルアプローチのサイナスリフト)を行い、半年経過してからインプラント埋入を行うという基本術式を遵守することが重要です。

サイナスリフトにおける骨移植材は世界的にはBio-ossを混ぜ物なしで100%使用するという方法が最も良い長期結果を出しています。Bio-ossは非常に高価な材料ですが、結果には変えられません。サイナスリフトで十分な骨を作るためには片側2~3g使用します。

この材料代金だけでも5万円以上かかりますが10mmのインプラントを埋めて、なおかつインプラントの先端から上顎洞底まで3mm程度の距離を得る為には吸収と感染リスクの少ないBio-ossが望ましいのです。インプラントの先端から上顎洞底まで3mm程度の距離を確保する理由は、インプラントの先端が上顎洞底に接していると、患者さんが風邪をひいて一時的に上顎洞炎になった時にインプラント表面が感染し、持続的な感染源となって、慢性上顎洞炎の原因になるリスクがあるからです。

費用

サイナスリフトにかかる治療費は片側30万円