治療例から学ぶ

上下顎崩壊症例(12)

歯がグラグラで食事が十分に出来ないケース

初診時

パノラマレントゲン写真
レントゲン写真

歯がグラグラで食事が十分に出来ないという主訴にて来院されました。
治療法は上下顎ともAll-on-4(オールオン4)を考えたのだが、上顎においては左右の上顎洞が前方まで張り出しており、後方のインプラントが理想的な位置に埋入出来ません。そこで上顎においては上顎にインプラントを埋入すると同時に左右の上顎洞にサイナスリフトを行い、上顎洞内の骨が成熟した後にインプラントを追加埋入することにしました。

初診時顔貌
初診時正面観
初診時正面観
初診時アンテリアガイダンス
初診時右側方面観
初診時左側方面観

初診時顔貌
初診時正面観
初診時正面観
初診時アンテリアガイダンス
初診時右側方面観
初診時左側方面観

初診時上顎咬合面観
初診時下顎咬合面観

手術過程

左右のサイナスリフトと上下のAll-on-4(オールオン4)インプラント埋入直後のパノラマレントゲン写真

パノラマレントゲン写真

手術過程

手術写真

手術時上顎咬合面観

手術写真

既存歯に支持を求めた歯牙支持タイプのコンピューターサージカルガイドを用いてインプラント埋入を行う。

手術写真

インプラントを埋入直後にサイナスリフトを行う。シュナイダー膜に小さなパーフォレーションを起こしたので、コラテープにてシュナイダー膜を補強した上で、骨補填材のバイオスを充填する。

手術写真

シュナイダー膜の上にコラテープを置いて、軽く押してシュナイダー膜とコラテープを馴染んで一体化させる。シュナイダー膜を置くと周囲からの出血で馴染んでくるので決して力を入れてはいけない。

手術写真

30秒程経過するとシュナイダー膜とコラテープは馴染んでくる。

手術写真

ボーンキャリアを用い、血餅とバイオスを混和したゲル状の塊を鼻腔側から順番に充填していくが、血餅とバイオスの割合では上記写真のように、塊として扱える程度の混和比が望ましい。血液の混ざっていない白い部分が残っている割合が丁度良い。この時点でバイオスが血液で真っ赤な状態だと、移植材がゲル状にならず、柔らか過ぎで、コントロールが困難となる。血餅は手術に先立ち静脈から採血し、ガラスやステンレスの容器に移しておくと15分程度でゲル状になるので、鑷子(ピンセット)で摘まみ上げる状態に硬化した状態で用いる。細いボーンキャリアの先端部を上顎洞内の骨に置きたい場所まで移動して、骨を置いてくる。

手術写真

骨を置いたら、上顎洞底に左官作業のように、サイナスリフト用の剥離子を用いて上顎洞底に擦り込むように、奥から順番に血餅とバイオスを混和したゲル状の塊を隙間無く充填していく。

手術写真

この操作を繰り返すが、上顎洞の奥の方の充填が終了したら、浅い部分はボーンキャリアのサイズを大きくすると作業が効率的に出来る。

手術写真

血餅とバイオスを混和したゲル状の塊は下に落ちてくるが、これを上方、つまり上顎洞底方向に持ち上げて、圧迫して落ちてこないようにする。

手術写真

最終的に上顎洞側壁まで充填が終わることには、バイオスには血液が浸透し、真っ赤になり、白いバイオスは残らない。バイオスの使用量は片側で2gを標準とし、頬舌の距離が大きい時は3g用いる。骨移植材は混ぜ物無しで、バイオスを単体で用いるのが一番安定した結果が得られる。

手術写真

上顎の左右のサイナスリフトとインプラント埋入が終了した状態の上顎咬合面観。

手術写真

上顎の手術が終わってから下顎のAll-on-4(オールオン4)のインプラント埋入を行う。下顎のAll-on-4(オールオン4)インプラント埋入の注意点は下歯槽神経を障害しないことだ。従来の手術法では広範囲に歯肉を剥離してオトガイ孔を明示野での手術を行うが、今回はコンピューターサージカルガイドを用いことにより、歯肉の剥離を最小限に抑えた低侵襲手術を行っている。

手術写真

コンピューターサージカルガイドを前歯部に固定し、後方の傾斜インプラントの埋入窩を形成し、その後歯肉を剥離し、骨のリダクションを行う。

手術写真

下顎のインプラント埋入が終了した状態の下顎咬合面観。

手術写真

当院では午前中に上下のインプラント埋入を終了させ、午後に静脈内鎮静が醒めてから仮歯の装着を行っている。

手術写真

オッセオインテグレーションを獲得する前に仮歯が壊れ、インプラント同士の固定が壊れるとインプラントが動揺しオッセオインテグレーションを獲得することが出来なくなるので、インプラント同士は強固に連結し、仮歯自体が破損してもインプラント同士の位置は変化が無いようにすることが重要。

手術当日に仮歯装着

手術当日に仮歯が装着された顔貌
手術当日に仮歯が装着された顔貌

手術当日に仮歯が装着された口元
手術当日に仮歯が装着された口元

手術当日に仮歯が装着された前方面観
手術当日に仮歯が装着された前方面観。この時点では臼歯部は一切咬合させないことが重要。

手術当日に仮歯が装着された状態のアンテリアガイダンス
手術当日に仮歯が装着された状態のアンテリアガイダンスですが、垂直的な被蓋は2mm程度で浅めに設定する。上下の歯牙の咬合は下顎の犬歯より前方部のみを咬合させる。

手術当日に仮歯が装着された状態の右側方面観
手術当日に仮歯が装着された状態の右側方面観

手術当日に仮歯が装着された状態の左側方面観
手術当日に仮歯が装着された状態の左側方面観

手術当日に仮歯が装着された状態の上顎咬合面観
手術当日に仮歯が装着された状態の上顎咬合面観

手術当日に仮歯が装着された状態の下顎咬合面観
手術当日に仮歯が装着された状態の下顎咬合面観

インプラント埋入とサイナスリフト後の9ヶ月経過

パノラマレントゲン写真

インプラント埋入とサイナスリフトを行ってから9ヶ月経過しています。通常であれば、この時点でインプラントは既にオッセオインテグレーションを得られていますが、サイナスリフト部の骨はある程度は硬くなってきていますが、まだまだ成熟した状態ではありません。

サイナスリフトを行った後、移植部の形態が安定し、内部に血管網が構築され、幼若な骨のネットワークが出来てくるのに骨移植材としてバイオスを単体で用いている理由は、一番確実に骨が出来るからです。自家骨の場合は4ヶ月でインプラント埋入が可能な状態になりますが、後からの骨の大量の吸収がおきます。β-TCPも同様です。化学合成されたHAはレントゲン的には長期に吸収されませんが、HA顆粒の間に自家骨が形成されない場合がしばしば認められ、感染源となる可能性があるので、使用はお勧めしません。

サイナスリフトを行ってから9ヶ月経過した状態

サイナスリフトを行ってから9ヶ月経過していますので粘膜は十分治癒しています。コンピューターガイドサージェリーを行えば精度の高い手術を行えるだけでなく、最小の切開剥離で手術を行うことができます。

テンポラリーシリンダーを外し、マルチユニットアバットメントに背の高いヒーリングキャップを装着した状態で印象を採得し、コンピューターサージカルガイドを製作しておきます。当院ではストローマン社のソフトウェアを使用し、院内にある3Dプリンタを用い自院で製作しています。

コンピューターサージカルガイドを試適した状態
コンピューターサージカルガイドを試適した状態です。この状態で細い2.2mmのパイロットドリルで歯肉を貫通したあと、最小限の切開剥離を行い、骨と埋入ポジションに問題が無いことを確認した後、コンピューターサージカルガイドを口腔内に戻し、ドリルサイズを上げながら、最終的には明示野でインプラント埋入を行います。

8ヶ月後

パノラマレントゲン写真
パノラマレントゲン写真

8ヶ月後にサイナスリフト部に埋入したインプラントを前方のインプラントと連結し一体化した仮歯にします。

パノラマレントゲン写真
インプラントのアバットメントに印象用コーピングを装着し印象を採得しました。この印象は最終印象では無く、印象用のコバルトクロムで鋳造した患者さん個人の為の印象用フレームを製作する為の印象です。印象用コーピングを装着した際に、印象用コーピングがアバットメントに完全に装着されていることをパノラマレントゲン写真で確認してから印象採得を行います。

パノラマレントゲン写真
技工所に発注したコバルトクロムで鋳造された印象用のフレームが出来上がってきたので、パノラマレントゲン写真で印象用コーピングが浮いていないことをパノラマレントゲンで確認した後、鋳造印象用フレームと個々の印象用コーピングとをパターンレジンで固定し、上からシリコン印象材でオーバーインプレッションを行います。

メタルフレーム試適

パノラマレントゲン写真

最終補綴物装着

パノラマレントゲン写真
レントゲン写真

最終補綴物

最終上顎補綴物粘膜面観
最終上顎補綴物粘膜面観
最終下顎補綴物粘膜面観
最終下顎補綴物粘膜面観

最終補綴物装着

最終補綴物装着時の顔貌
最終補綴物装着時の顔貌
最終補綴物装着時の顔貌
最終補綴物装着時の口元
最終補綴物装着時の正面観
最終補綴物装着時のアンテリアガイダンス
最終補綴物装着時の右側方面観
最終補綴物装着時の左側方面観

最終補綴物装着時の顔貌
最終補綴物装着時の顔貌
最終補綴物装着時の顔貌
最終補綴物装着時の口元
最終補綴物装着時の正面観
最終補綴物装着時のアンテリアガイダンス
最終補綴物装着時の右側方面観
最終補綴物装着時の左側方面観

最終補綴物装着時の上顎咬合面観

最終補綴物装着時の下顎咬合面観

リスク・副作用、費用について

リスク・副作用

この症例の特徴は左右の上顎洞が前方まで張り出していて、上顎のインプラントが前方にしか埋入出来なかったことです。後から臼歯部にインプラント埋入を行うので上顎前歯部のインプラント埋入と同時に左右のサイナスリフトを行なっていますが、そこにインプラントを埋入するのは6ヶ月後になります。

このように後からインプラントを臼歯部に埋入する場合でも最初にインプラントを前歯部に6本埋入するのは、インプラントがオッセオインテグレーションを獲得できないリスクがあるからです。

この症例のようにインプラントを直線上にしか配列出来ない場合は仮歯に咬合力がかかっても、実際荷重がかかるのは最遠心のインプラントに集中します。また、連結した仮歯が動いた場合に最遠心のインプラントが一番大きく動くので最遠心のインプラントはオッセオインテグレーションを獲得しにくいのです。最遠心のインプラントがオッセオインテグレーションを獲得出来ない場合にその役目を果たすのが、隣の前方のインプラントなのです。

つまり、確実にオッセオインテグレーションを獲得する為にはスペアというか、予備のインプラントを仕込んでおく準備が必要なのです。そうでないと、固定式の仮歯が維持できないのです。

費用

上顎420万円、下顎230万円