治療例から学ぶ

上下顎崩壊症例(8)

口腔はボロボロで硬いものを食べることができなかったケース

初診時

初診で当院を訪れた時、患者さんの口腔はボロボロで硬いものを食べることは出来ない状況でした。
体格はスポーツマン風の巨体で、噛めるだけでなく、清原選手のような真っ白な歯を手に入れたいとの希望で、臼歯部はチタンフレームにジルコニアクラウンを装着しました。

パノラマレントゲン写真
レントゲン写真

初診時顔貌
初診時正口元
初診時正面観
初診時アンテリアガイダンス
初診時右側方面観
初診時左側方面観

初診時顔貌
初診時正口元
初診時正面観
初診時アンテリアガイダンス
初診時右側方面観
初診時左側方面観

初診時上顎咬合面観
初診時下顎咬合面観

治療方針

上顎にはAll-on-4(オールオン4)を支えるだけの骨がどこにも存在しなかったので、サイナスリフトを行い骨が出来てから2回法でインプラントを埋入することにしました。下顎は十分な骨がありましたので通常のAll-on-4(オールオン4)にて即日で固定式の仮歯を装着しました。

手術過程

手術写真

手術時の下顎咬合面観

手術写真

All-on-4(オールオン4)成功のポイントは歯牙を抜歯した場合は骨縁をリダクションすることにあります。この時点でのリダクション量が少ないと、補綴物の辺縁が外観に露出したり、スムーズな唇や舌、頬の動きを阻害し、毎食後、食べ物が補綴物周囲に残り外観に露出することになります。

手術写真

下顎All-on-4(オールオン4)の縫合が終了した時点での口腔内の状態です。縫合は、水平マットレスと単純縫合を組み合わせます。水平マットレスはゴアテックスの4-0の縫合糸で弁が開かないように固定した上で、創面を細い5-0か6-0のモノフィラメント(ここではジーシーのソフトレッチ)でバットジョイントに単純縫合します。

パノラマレントゲン写真

使用したインプラントはZIMMER-BIOMET社製のT3インプラントです。

手術写真

手術写真

通常は午前中にインプラント埋入を行い、静脈内鎮静が醒めた午後に仮歯を作ります。仮歯での咬合が重要ですので、静脈内鎮静が効いている内は口の開閉運動がきちんと出来ないからです。また、仮歯の破損が起こるとオッセオインテグレーションを獲得できません。その為に、テンポラリーシリンダー同士を義歯の補強線で囲んだ上に、矯正用のリガチャーワイヤーで結紮し、それをレジンでガチガチに固定します。このガチガチに固定されたフレームに対して、予め作っておいた義歯を固定するという手法をとります。

下顎の仮歯が装着された状態

下顎の仮歯が装着された状態です。上顎が仮義歯で、義歯の安定の為、低い咬合高経を与えてありますので、下顎の歯茎が見える量が多いのですが、最終的には上顎で咬合高経を挙上し、外観のバランスをとります。

手術写真
手術写真

手術写真
手術写真

All-on-4(オールオン4)は歯槽骨にインプラントを埋めるのでは無く、吸収が抑えられた顎骨部分へのインプラント埋入になりますので、インプラントの位置と歯冠の位置とでは、大きく位置が異なります。ここでも、歯槽骨のリダクション量が少ないと舌房が狭くなり、飲食や発音が困難になりますので、十分な歯槽骨のリダクションを行うことが重要です。

次に上顎へ

CTデータから上顎洞底が大きく下がっていることが分かります。最終的にインプラントのプラットフォームの高さを揃える必要があるので、たださえ少ない上顎前歯部の歯槽骨を更にリダクションする必要があるので、長いインプラントを使用することは不可能です。

この時点ではわずかながら骨がある前方に4本、左右の上顎結節部に2本の7.5mmの短いバイオホライズンズインプラントを6本埋入し、左右の上顎洞に対してサイナスリフトを行いました。

手術写真

術前上顎咬合面観ですが、今回はインプラント埋入とサイナスリフトを行うだけで無く患者さんは術後に取り外し式の義歯を使用します。All-on-4(オールオン4)の場合は、仮歯はインプラントに固定されますが、術後に取り外し式の義歯を使用すると創は開いてしまう確率が一気に高くなりますので、術前に抜歯を済ませておき、粘膜が十分に治癒してからインプラント埋入とサイナスリフトを行うことが望ましいのです。

手術写真

インプラント埋入とサイナスリフトが終了した状態です。サイナスリフトを行う為には縦切開が必要ですが、縦切開の数が増えると弁が壊死しやすいので血行が横切らない前方の正中に一箇所だけ縦切開を設定します。また、術後は義歯で縫合した創面をこすることになりますので、縫合は連続縫合では無く、単純縫合で行います。糸は太い糸を使用し、切開ラインから十分に距離を確保した位置に針入点を設定します。

上顎のインプラント埋入と左右のサイナスリフト終了後の状態

パノラマレントゲン写真

インプラント埋入と左右のサイナスリフト終了9ヶ月後

手術写真

上顎のインプラント埋入と左右のサイナスリフト終了後9ヶ月の状態です。今度はサイナスリフトを行なった部位へインプラント埋入を行います。

手術写真

下顎のインプラント埋入は付着歯肉を獲得する目的で、コンピューターガイドサージェリーを用いる場合でも歯肉を切開剥離しますが、上顎は十分な付着歯肉があるので、通常はコンピューターガイドサージェリーを用いても歯肉の切開剥離は行わず、歯肉は歯肉パンチで穴を開けるだけです。

しかし、コンピューターガイドサージェリーにおいては歯牙支持タイプ、骨支持タイプ、粘膜支持タイプ、それらの複合タイプがあります。動揺の無い複数の歯牙に固定された歯牙支持タイプは誤差がほとんどありませんが、その他のタイプ、特に残存歯が存在しない粘膜支持タイプのコンピューターガイドサージェリーは安定しない為、ドリルの位置が4mm程度ずれることがあります。そこで、2.0mmもしくは2.2mmのファーストドリルを使用した後、粘膜骨膜弁を剥離し、予定したポジションとズレが無いか?を確認した後、サージカルガイドを戻してドリルサイズを上げて、最終ドリルは明示野で目視しながら埋入を行います。このような手法をとれば、切開ラインで縦切開を加える必要が無いので、術後に可撤式の義歯を使用しても、創が開いてしまうリスクがぐっと低くなります。

手術写真

パノラマレントゲン写真経過

パノラマレントゲン写真

上のパノラマレントゲン写真は上顎にインプラントを追加埋入した直後の状態です。

パノラマレントゲン写真

6ヶ月後の全てのインプラントのオッセオインテグレーションを確認したのでマルチユニットアバットメントを装着し、歯牙支持のテンポラリーに変更しました。

パノラマレントゲン写真

3ヶ月仮歯でインプラントにロードをかけましたが、オッセオインテグレーションは維持されましたので、インデックス模型製作の為のカステムメイドの鋳造フレーム製作の為の印象を採得します。

パノラマレントゲン写真

尚、右上の最後方のインプラントは隣接する前方のオッセオインテグレーションが確認できたのでスリープすることにしました。

最終補綴物装着

パノラマレントゲン写真
レントゲン写真

最終補綴物装着時の顔貌
最終補綴物装着時の顔貌
最終補綴物装着時の顔貌
最終補綴物装着(口元拡大)
最終補綴物装着(前方面観)
最終補綴物装着(前方面観)
最終補綴物装着時のアンテリアガイダンス
最終補綴物装着(右側方面観)
最終補綴物装着(左側方面観)

最終補綴物装着時の顔貌
最終補綴物装着時の顔貌
最終補綴物装着時の顔貌
最終補綴物装着(口元拡大)
最終補綴物装着(前方面観)
最終補綴物装着(前方面観)
最終補綴物装着時のアンテリアガイダンス
最終補綴物装着(右側方面観)
最終補綴物装着(左側方面観)

最終補綴物装着(口腔内)

最終補綴物装着(口腔内)

装着して2ヶ月後

装着して2ヶ月後にネジの緩みがないかレントゲンでチェックします。

パノラマレントゲン写真
レントゲン写真

リスク・副作用、費用について

リスク・副作用

この症例の特徴は、上顎は極端に骨が無かったことと、患者さんが極端に白い歯を望んだことでした。他には非常に体格が良い患者さんでヘビースモーカーだということもインプラント治療にとっては大きなリスクです。

この症例で上顎に即時負荷を行うのであればザイゴマインプラントを使用するという手段があります。しかし、ザイゴマインプラントは上顎洞内をインプラント体が貫通しますので、術後に患者さんが風邪をひいて急性上顎洞炎になった場合にインプラント表面が感染してしまうリスクがあります。

一旦インプラント表面が感染した場合、ザイゴマインプラントが永続的な感染源となり、慢性副鼻腔炎という副作用のリスクがあるのです。そこで、この症例では一度全ての歯牙を抜歯して、骨と粘膜の治癒を待ってからインプラント埋入とサイナスリフトを行うという基本的な手法をとりました。ハイリスク患者さんには、治療法は一番確実な手段を取ることが大原則です。

他には患者さんが上顎の咬合面も真っ白い歯にしたいとの希望がありましたので、上下顎の補綴物はCADCAMフレームで支台歯形状を削り出しジルコニアクラウンを装着しました。

費用

上顎540万円、下顎320万円